効率を追求せず、今もなお伝統的な製法を守り続けるスプリングバンク蒸溜所
スコットランド研修での模様を簡単なレポートにまとめていきたいと思います。
今回は、キンタイア半島の割りと先の方にあるキャンベルタウンのスプリングバンク蒸溜所での模様です。
まずは、地図で場所の確認をしてみてください。
地図が見づらいですが、キンタイア半島は、アイラ島・ジュラ島とアラン島に挟まれており、蒸溜所自体は、海のそばに位置しています。
↓スプリングバンク蒸留所の入り口の壁面の看板です。
蒸溜所名はスプリングバンクですが、生産しているシングルモルトのブランドは、定番の塩気と程よいピートの効いたスプリングバンク、ヘビーピートのロングロウ、ライトなタイプのヘーゼルバーンの3つあり、それぞれに違った個性を持っています。
生産量のうち、約8割がスプリングバンクで、残りの2割がロングロウとヘーゼルバーンということです。
↓こちらは、スプリングバンク蒸溜所に併設されているショップで、同じ資本であるボトラーズのケイデンヘッドの商品と一部のスプリングバンクが販売されていました。
味わいの要であるフロアモルティング
↓スプリングバンクの特徴との1つが、伝統的な製麦方法であるフロアモルティングを行っていることで、現在は、100%をフロアモルティングで麦芽を賄っています。
非常に骨の折れる作業で、時間も人件費も掛かり、効率は決して良くないのですが、伝統的な製法を未だに守っています。
↓拡大した写真で、麦芽から根が出ているのが見えるでしょうか?
噛むと甘く、麦の味わいがしっかりしましたが、大きくふくらんでいるものを食べると、少し緑っぽい植物感があり、恐らく麦芽の中で、少し、葉の成長が進んでいたようです。
もちろん、ムラが出来ないように撹拌されて作られているのものの、どうしてもムラは発生しますが、この僅かなムラが、スプリングバンクの美味しさの秘密の1つなのかもしれません。
ちなみに、93ヴィンテージあたりから、その前のあたりヴィンテージよりスプリングバンクが凄く美味しくなったような気がしているのですが、その理由は、それ以前は、一時期、蒸溜所改修するために、モルトスター(製麦業者)から大麦麦芽を購入していた時期があったそうで、93年あたりから、100%フロアモルティング(自家製麦)で仕込んでいるので、それが一因かもしれないようです。
↓ピートを焚く釜で、こちらにピートを焚べて、その熱風で麦芽を乾燥させます。
そうすることによって、ピートから発生したフェノール化合物が、麦芽中の水分に溶け込み、出来上がるニュースピリッツにもフェノール化合物が残り、ピーティな原酒が出来上がります。
途中、なんで、時代時代でスプリングバンクのピートの強さにバラツキが大きいのかという質問が出たのですが、昔は、おおらかだったので、厳密にピートの炊き込み具合を管理されていなかったからだったそうで、意図して変化させたというよりは、自然とバラツキが出たようです。
塩気(潮気)の不思議とピート
下の写真が実際に使用しているピートで、残念ながら、かつてキャンベルタウンでピートは取れたのですが、現在は、掘り尽くして、他の産地のピートを使っているそうです。
途中、自分が、スプリングバンクの塩気っていうのは、どこから由来するものか?という質問させていただいたところ、一つは、海から非常に近い場所に蒸溜所が位置し、ウェハウスも海に近いので、風に乗って海の塩気運ばれ、樽が呼吸することによって、原酒に塩気が着くそうなのですが、もう一つは、ピート由来の成分にも塩気を感じさせるような成分があるそうで、それも影響しているということでした。
もちろん、塩(塩化ナトリウム)は揮発しないので、製造過程で蒸溜されることで、ニュースピリッツに含まれることがないと考えるべきですが、揮発しない物質でも、蒸留の過程で、泡沫になって上昇気流に乗って、僅かにニュースピリッツに含まれることがあると習いましたし、塩そのものでなくても、ピート由来の塩気を想起させるような揮発性の塩化物がニュースピリッツに含まれるせいなのかもしれません。もちろん、ピートの産地も影響するのだと思うので(※風土によって植生が違うため)、一概には言えないと思いますが…。
そもそも、なぜ、こんなことを質問したかという、頻繁に、
『海のそばにウェアハウスがあるから原酒に塩気(潮気)が……』
と、海のそばにある、スプリングバンクやアイラモルトやタリスカーなどについて言われていますが、アイラ島のカリラは、原酒をアイラ島ではなくて、殆どをスコットランド本土のディアジオの集中熟成庫で熟成させているのにも関わらず(※カリラの熟成庫には、同じディアジオのアイラモルトのラガヴーリンが熟成されています)、潮気を感じることが多いので、これでは『ウェハウスが海のそばだから理論』に矛盾が生じます。(本土の集中熟成庫でも潮気を吸うなら、他のディアジオの蒸溜所の原酒も潮気を感じないとオカシイですよね………。)
それに、例えば、アラン島のアラン蒸溜所も海のそばにある蒸溜所ですが、特筆するほどの強い塩気を感じたことはありません。
ということで、かなり話が脱線しましたが、塩気の問題は、そう単純ではないということが言いたかっただけです(汗)
詳しい理由をご存じの方がいらっしゃれば、ぜひ、教えてください。
※個人的に、『塩気』は塩分を感じるという意味で、『潮気』は、塩分だけでなく磯の香りも感じさせるという意味で使っているつもりですが、あまり気にしないでください。
↓麦芽を粉砕麦芽に変えるためのモルトミル(ローラーミル)は、有名なポーティアス社製。
↓続いて糖化槽(マッシュタン)。
↓暗くて手ブレしていますが、マッシュタンの内部です。
ブランドごとでのこだわりの蒸留方法
↓そして、ポットスチル。ポットスチルは3基なのですが、スプリングバンクの蒸留方法は特殊で、スプリングバンクが2.5回蒸留、ロングロウが一般的な2回蒸留、そしてヘーゼルバーンがアイリッシュやローランドの一部で行われている3回蒸留と、それぞれのブランドに合わせて蒸留方法を変えています。
独特の酸っぱい香りがする、じめじめとしたウェアハウス
↓スプリングバンクのウェアハウス内。
写真は一段ですが、伝統的なダンネージ式で、他のウェハウスと比べてかなりジメジメした土の床で(※床の一分はぬかるんでいました)、床も壁もカビが多く、壁は黒いカビで、床には白いカビが発生している状態でした。
また、ウェアハウス内は、他の蒸溜所ではあまり強く感じることのない、京都のお漬物である『すぐき』を思わせるような独特の酸っぱい香りがあり、ハッキリしたことは分かりませんが、カビだけではなく、乳酸菌や酪酸菌も繁殖しているのかもしれません。
ウェアハウス内では、スプリングバンク、ロングロウ、ヘーゼルバーンなどの様々な原酒をテイスティングさせていただき、中には、ポート樽やワイン樽、また、余ったローカルバーレイの原酒を詰めたミニ樽なんかもありました。
↓下の写真の樽は、ロングロウ2007のシェリーバットだったと思いますが、僅かにサルファを感じましたものの非常にパワフルで、しっかりとした味わいで、もう数年熟成させると、サルファが抜けて、適度に角が取れて、より一体感が出て、素晴らしい原酒に仕上がりそうな出来でした。
そして、下の写真の樽は、ケイデンヘッドで所有する樽も試飲させて頂いたのですが、こちらは、ケイデンヘッドの『カスクエンド』として販売されてる、いわゆるハンドフィル用の樽で、モートラック1987です。
他にも、いろんな樽がありましたが、残念ながら、カスクエンドで人気のスプリングバンクは、売り切れでした……。
途中、ケイデンヘッドのマーク・ワット氏ともウェアハウスでお会いしましたが、スーツでビシっと決めていらっしゃいまして、容器で気さくな普段のイメージとは違って、エリートビジネスマンっていう雰囲気でした。
また、ケイデンヘッドのサンプルは、ショップの2階にあるテイスティングルームで多数テイスティングさせていただきましたが、今までに、既にリリースされているものとスペック的に近いものが多く、そして、また、樽もプレーンな感じのものが多い印象でした。
地元に貢献するという経営理念
ざっと、蒸溜所内の説明などをさせていただきましたが、お話を伺っていて、とても感心していたのは、スプリングバンクとケイデンヘッドの会社である、J&A・ミッチェルは、十分に利益が上がっているので、これ以上増産をして利益を追求するような気がないそうで、それどころか、従業員を増やして、地元の経済のために貢献しようという姿勢で運営されているそうです。
最新の大手の超巨大蒸溜所だと、その規模にも関わらず、オートメーション化されているため、ほんの数人のオペレーターで回しているのですが、スプリングバンクは、人気蒸溜所ながらも決して規模は大きくないのに、70~80人ほどの従業員を雇用されているそうで、つい先日も、新たに雇用したと言われていました。
また、跡取りがいないまま、もし、経営者の方に万が一のことが有った場合は、株式の半分が町に寄贈されて、町と一緒に経営をするような形が取られているそうで、誰かが後を引き継いだ時に、利益最優先の経営にならず、地元に貢献し続けられるようそこまで気を使われていることが驚きでした。
まだまだ、話は尽きませんが、キリがないので今回はこの辺で…。
余談やこぼれ話は、機会があれば、また別で書きたいと思います。
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